消えた境界を、引き直す
私たちは、獣害対策の中で最後まで人の根気に頼るしかなかった「追い払い」を、機械にまかせられる仕事に変えようとしています。
出発点にあるのは、追い払う人手がこれからも減り続けるという現実です。
歴史をたどれば、人と野生動物のあいだには、いつも「境界」がありました。薪を採り、草を刈り、炭を焼く。人が暮らしの中で山に入り続けることで、集落と奥山のあいだには人の気配のにじむ緩衝地帯が生まれ、獣は容易にその線を越えませんでした。それでも境を越えて下りてくる獣には、石垣や柵——「シシ垣」——で田畑を囲い、狩猟で数を抑え、火や鳴子、夜の見張りで追い返してきました。境界とは地図の上の線ではなく、人の営みが毎日引き直していた線でした。
いま、その線が消えかけています。燃料が薪から石油へ変わり、人は山に入らなくなりました。中山間地域では人口減少と高齢化が進み、耕作されなくなった農地が緩衝地帯を侵食しています。環境省の調査では、この40年でニホンジカの分布域は約2.7倍、イノシシは約1.9倍、ツキノワグマも約1.5倍に広がりました。農作物の被害は全国で年間164億円(令和5年度)。クマの市街地出没は連日のニュースになり、人身被害は令和7年度に238人と過去最多を更新しました。そして、境界を引き直す担い手は——農家も、狩猟者も——減り続けています。
獣の側に、悪意はありません。人の気配が消えた場所を、安全な餌場として学習しているだけです。だからこそ放っておけば被害は世代を超えて定着し、境界線はさらに集落の側へ、そして町なかへと動いていきます。国もこの構図を正面から受け止め、令和8年3月、閣僚会議で「クマ被害対策ロードマップ」を決定しました。掲げられた将来像は「人とクマのすみわけ(ゾーニング)の実現」。柵で塞ぐ、捕獲で減らすと並んで、消えた境界をもう一度引き直すことが、国の対策の柱に据えられたのです。
私たちが取り組んでいるのは、まさにこの「境界を引き直す」仕事です。守りたい土地の境に張った線と地上のセンサーが獣の侵入をとらえ、小型ドローンが自動で出動して追い払う。進入の方向も高さも音も毎回変えながら、「ここは嫌なことが起きる場所だ」と獣に学習してもらう——かつて人が守っていた境界を、疲れも眠りもしない機械が、昼も夜も同じ根気強さで引き直し続けます。人手をこれ以上増やせない土地でも、続けられるかたちで。
仕組み
「気づく」「出動する」「記録が残る」——この3つを、まるごと自動化しています。
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気づく
圃場の周囲に張った線(トリガーワイヤー)と、地上に置いたセンサーが侵入を検知します。 線は押されても切れても分かるので、気づかないうちに無効化されることがありません。
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出動する
地上に置いた司令塔(小型のコンピューター)が状況を判断し、待機中のドローンへ座標を送ります。 ドローンは自動で現場へ向かい、人の声・犬の声などの音で追い払い、終われば自ら帰還します。 電波が届かない場所でも、判断は現地で完結します。
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記録が残る
「いつ・どこから・何が侵入したか」が自動で記録されます。 対策の効果を数字で確かめられるようになり、翌年の備えや、地域での対策の共有にも使えます。
3つの特徴
「小さい機体を使う」という選択が、手続き・価格・効き目のすべてを支えています。
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100g未満 機体登録が要らない大きさ
100g未満の機体は航空法の「無人航空機」に当たらず、機体登録の対象外です。 手のひらに載る大きさなので、万一落ちたときの危険も小さくなります。
※ 機体が小さくても、鳥獣保護管理法など関係法令は守って運用します。 -
業務用ドローン 0機 大型機に頼らないコスト構造
農薬散布などに使われる業務用ドローンは、機体1台で約150〜200万円します。 当社は業務用ドローンを1機も使わず、100g未満の小型機と地上のセンサーの組み合わせで、導入しやすい価格を目指しています。
※ 料金の想定は「現在の状況」の欄をご覧ください。 -
慣れさせない 「音=無害」と学習させない設計
置きっぱなしの音や光は、数週間で慣れられてしまいます。当社は追い払う側が動くこと、 進入方向・高度・音源を毎回変えることで、獣に「この音は無害だ」と学習させないことを設計の中心に置いています。
※ ストロボ光は、当初は効いても慣れられるのが早いため採用していません。機体の灯りは安全確認用の位置灯のみです。
現在の状況(2026年7月時点)
当社はまだ実証前です。導入実績はありません。
現在は、実機と同じ制御ソフトを使うシミュレータ上での動作検証を終えた段階です。 圃場での計測は2026年9月から、ドローンを含む実地運用の実証は2026年10月から始めます。
開発を終えているもの
- 済 シミュレータ(実機と同じ制御ソフトを使う ArduPilot SITL)上で、「通報された座標へ自律飛行 → 旋回して周囲を走査 → 熱源を検知 → 地上の座標を推定 → 帰還」までを全自動で完走。
- 済 追い払いの飛行制御と、地上の司令塔ソフト(通報の受信 → 機体の割り当て → 座標の配信 → 完了の判定)を実装。
- 済 夜間のサーマル(熱)検出と、日中のカメラ映像からの動き検出のプログラムを開発(人工的に作った映像データを用いた段階)。
- 済 機体の乗っ取り対策を含むセキュリティ設計。守りきれない範囲は文書に明示しています。
これからのもの
- 未 機体の組み立てと重量の実測(2026年8月に実施予定)
- 未 実際のカメラで撮影した映像での検証(これまでは人工データで開発)
- 未 実証にご協力いただける圃場を探しています(〜2026年8月末)
これからの予定
- 2026年8月 機体の組み立てと重量の実測。実証にご協力いただける圃場の確定。地上センサーの設置。
- 2026年9月 対策なしの状態での侵入回数を計測します(ドローンはまだ飛ばしません)。効果を比べるための基準データづくりです。
- 2026年10月〜12月 ドローンを含む実地運用の実証。同じ圃場で、侵入回数・追い払いにかかった時間・再び侵入するまでの間隔を記録します。
- 2027年1月〜3月 実証データの解析。仕様と価格の確定。
仮 料金について:いちばん小さい構成(周界600m・2ha相当)で 初期費用 83.4万円+月額 5.5万円を想定しています。 ただしこの価格はすべて仮説であり、確定したものではありません。 実証期間中にお支払い意思をうかがう調査を行い、そのうえで確定します。
会社概要
| 商号 | 合同会社 冪(ごうどうがいしゃ べき) |
|---|---|
| 設立 | 2026年6月4日 |
| 代表社員 | 細尾 皓平 |
| 所在地 | 京都市左京区黒谷町33番地1 |
| 資本金 | 100万円 |
| 事業内容 | 農地防衛RaaS(自動追い払い)/農地デジタルツインの開発・運用 |
お問い合わせ
実証へのご協力、導入のご相談、取材のお問い合わせを承っています。
とくに、実証にご協力いただける圃場を探しています。 自治体・農業協同組合・農業共済組合・猟友会・集落営農組織のみなさまからのご連絡をお待ちしています。 まずは9月の計測からご相談させてください。 費用のご負担を含め、進め方は個別にご相談のうえ決めさせていただきます。